理系学生は「オンリーワン」になれる可能性が高い!

理転→理学部入学→文系就職→フリーランス

目次

    理系学部のみなさんは、「文系就職」という言葉についてどう思うでしょうか?

    筆者の経歴は、少し変わっているとよく言われます。

    高校2年生の時に文系クラスから理転し、理学部に入学しました。しかしその後、いわゆる文系就職、そして現在はフリーランスとして働いています。

    理系学生の文系就職は難しい?メリットはあるのか?

    そんな疑問を抱く理系学生の方もいらっしゃるでしょうか。

    しかし理系学生の文系就職は有利だと筆者は考えています。


    「なんでうちに来たの?」

    「京大の理学部まで出て、なんでうちに来たの?」

    筆者が就職活動中、TBSの最終面接で、役員から投げかけられた質問です。

    そんなことを聞かれて驚きたいのは筆者のほうですが、理由はシンプルです。放送局の仕事に興味があり、面白いと感じたからです。

    しかし、その役員からすれば筆者の学歴は奇妙に映ったのでしょう。

    筆者は受験数学を学ぶうちに数学の研究の世界に憧れを持つようになり、理転して理学部に入りました。理学部では、3年目の始めに専門分野の振り分けがあります。

    成績優秀な人から順に、好きな専攻を選べるというシステムです。

    結果としては、在学中にアルバイトばかりしてしまい学校には真面目に通わなかったため、数学専攻として卒業することはなく生物学専攻に入ったのですが、それはそれで楽しい世界でした。

    そのアルバイトというのが、在阪テレビ局の仕事です。

    具体的には、報道カメラのアシスタントでした。

    噂で聞いたこともあるかもしれませんが、京都大学は「入るのは難しくても卒業するのは簡単」というのは事実です(少なくとも当時は)。暴力的なまでに「野放し」でした。

    すっかり放送局の仕事に取り憑かれていた筆者は学問ではなくその世界への転身を決めていたため、ゼミが決まる前にすでに内定が出ていました。ですからゼミの教授に最初に会った日にその旨を最初に伝え、決して真面目とは言えない卒業論文を書き、ギリギリ単位数だけかき集めて卒業しました。

    理学部だけの特徴かもしれませんが、「研究者として残らない学生は、違う世界で頑張ればいい」という教授が多い状況でした。

    当時の記憶では理学部の進学率は90%を超えていました。就職するほうが変わり者でもあります。

    就職が決まっている筆者のような学生の場合、「さっさと卒業させたほうがお互いのため」というわけです。


    それでも心は理系だから

    筆者には電子工学の知識はありませんから、TBSへは当然「総合職」として入社しました。配属先は番組制作や報道記者、宣伝など総務部門です。いわゆる「文系就職」でした。

    総合職で入った理系学生は筆者だけだったような気がします。

    そして、配属先は報道局社会部でした。記者の仕事です。

    しかし、筆者には小さな野望がありました。

    「いつか、ひとり科学部を作りたい!」

    というものです。

    新聞社には社会部、政治部などと同列に「科学部」があります。しかし民放は人が少ないこともあってその余裕がなく、科学部は存在していないのです。

    筆者は配属直後から、民放の科学報道の少なさやその体勢を知って寂しい思いをしました。

    筆者は科学の世界の面白さを知っています。真面目な大学生ではありませんでしたが、少なくとも数学の世界に心奪われた経験もありますし、生物学の勉強も楽しいものでした。その楽しさを、理系の話題に苦手意識を持つ人にも伝えたいし、最前線で活躍する科学者と視聴者の橋渡し役になりたい、そう思いました。

    今思うのは、そんな発想をするのはおそらく筆者くらいなんじゃないか、ということです。

    「そういうのは必要だよね」と言ってくれる先輩もいましたが、口にするのは少数派だった気がします。

    そして、チャンスがやってきたのは文部科学省の担当記者になった時です。

    文部「科学」省の担当なのだから、科学にまつわる企画をやってもいいだろう、と思ったのです。


    「iPS細胞」ブームが来る前から

    そこで筆者が最初に純粋な理系企画を制作したテーマは、「再生医療」です。

    2006年に京都大学の山中教授らがiPS細胞の作製でノーベル賞を受賞する何年も前のことでした。

    当時は「ES細胞」による再生医療について時々新聞記事が出ていた程度でしたが、理解ある上司と番組プロデューサーのおかげで、7分程度のVTRをオンエアすることができました。

    簡単に説明しますと、ES細胞も「幹細胞」と呼ばれる、「どんな臓器にでもなれる」細胞です。iPS細胞との違いは、ES細胞が受精後1週間ほどの受精卵から取り出されるのに対し、iPS細胞は皮膚や血液の細胞から作ることができるというものです。

    当時ES細胞は大きな注目を集めていましたが、受精卵から作る、という意味合いで倫理的な議論もありました。受精卵は生命である、とも言えるからです。一方iPS細胞の元は皮膚や血液などです。これが大発見であり評価されたわけです。

    「再生医療」そのものはiPS細胞が大ニュースになるはるか前から最先端の技術として注目され続けていました。ただ、わかりやすく伝える必要があったので、筆者は手の込んだCGを作っていました。
    iPS細胞によるノーベル賞受賞が騒ぎになった時、先輩が「そもそも再生医療ってなんなのか」ということを知るために何年も前に筆者が作ったCGを一生懸命見ている姿を目にしました。

    その時はすこし自慢に思ったものです(ご本人に伝えてはいませんが)。

    これも、筆者が生物学をかじっていたからできたことです。iPS細胞の話題以前に再生医療を紹介したいと考えた人間は、局内広しと言っても筆者だけでしょう。その自負はあります。オンリーワンの仕事ができたのです。


    フリーライターになったいま

    そしていま筆者はフリーのWebライターとして働いているわけですが、理系学部の出身でよかったと思うことは多くあります。本業ライターの仕事だけで生活できるようになるのはそう簡単なことではありませんが、筆者の科学的知識と技術分野に対する理解力を評価していただいています。手前味噌ではありますが、オリジナリティの高い記事を提供できているようです。

    特に今は、デジタルなどテクノロジーが脚光を浴びている時代です。いわゆる「理系の話題」です。苦手意識や食わず嫌いの人は少なくありません。

    どのような専攻であれ、理系学部出身者は、物事を論理的に理解することが得意です。感情に流されない、ある意味ではドライな考え方をできるのも特徴でしょう。

    実は一般的には、文系の世界ではこれは非常に難しいことのようです。理系の筆者としては仕事で様々な人と接するうちに、「なぜそう考えてしまうのだろう?」と思うことがあります。もちろん、逆に学ぶことも多くあります。

    ところで先般、KDDIの大規模通信障害が起きた時、SNS上などで社長の記者会見に高い評価が集まったことを覚えていらっしゃるでしょうか。

    「社長がみずから技術的な質問にも冷静に答えている」。これが最大のポイントでした。

    確かにこのような記者会見の場所では、テクニカルな質問への対応は同席させている技術者に任せきり、というほうが多く見られる形式です。

    実はKDDIの高橋社長は、工学部出身の人です。

    テクニカルなことについては冷静に物事を考えられる、これも理系出身の特徴かもしれません。

    理系学部出身者の就職先は限られている?不利?

    いいえ、そんなことはありません。

    理系の勉強をしてきたからこそ身に付く「分析力」「冷静さ」は、企業の中では貴重なものなのです。


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    フリーライター

    清水 沙矢香 Sayaka Shimizu

    2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。 取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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